
障がい者雇用の難しさがあるのは現実。当事者側も雇用側も失敗や困難の連続だ。しかし、工夫を重ねて何度もその局面を乗り越えてきた企業がある。南区に工場を構える山田木工所は、合理的配慮の実践を通して二名の障がい者の自立や成長を後押ししている。それだけでなく、会社全体として利益が出やすい体質になり、職場もやさしい雰囲気に変化していった。もちろんそれは一筋縄にはいかなかった。どのような困難を、どう乗り越えてきたのか。代表の山田正志さんにお話を伺った。

山田 正志 (やまだ まさし)
有限会社山田木工所 代表取締役
1973年10月生まれ。鋼橋架設技術者を経て、2006年に家業である有限会社山田木工所へ入社。2018年に事業承継により代表取締役に就任。長男がダウン症である事をきっかけに障がい者雇用を始め、現在では外国人や高齢者、元ひきこもりなど、多様な背景を持つ人々の雇用を行っている。京都中小企業家同友会ソーシャルインクルージョン委員会にも所属し、求職困難者の雇用促進や支援にも取り組んでいる。
困難に向き合い、配慮を重ねて
一人ひとりに合わせた工夫を積み重ねるなかで、難しさを乗り越えてきた現場の試行錯誤。
自身の子どもの未来を想い、始めた障がい者雇用
「自分の子どもが将来、自立して働けるようになってほしい」。
ダウン症のあるお子さんを持つ山田さんは、そんな願いから、自社でも障がい者雇用に本格的に取り組む事を決意した。
だが実際に始めてみると、木工所の現場は毎日やり方が変化する職人の世界。教える人によって仕事の手順が異なるうえ、多動的な特性があると集中力が続かず、思わぬ事故につながる可能性もあった。安全性や効率の確保に悩み、理想と現実のギャップに直面する中で、「もう無理かもしれない」と、雇用そのものをあきらめかけた時期も確かにあった。

配慮の先に見えた成長と自立
理解と対話を通して育まれた変化。やさしさに支えられながら働き、社会とのつながりを築いていく。
二名の障がい者とともに、特性を活かす職場づくり
何か解決策はないかと模索していた矢先、木材の3D加工機に出会った。「これだったらいけるかな」と直感し導入を決意。そのタイミングで、パソコン操作が得意なAさんが山田木工所を訪れ、実習を経て入社した。京都中小企業家同友会のソーシャルインクルージョン委員会※を通じて紹介された彼は、発達障害を抱えながらも、三次元加工データの変換やプログラム作成、見積書作成などの事務を担い、約九年にわたり活躍している。
※京都中小企業家同友会のソーシャルインクルージョン委員会
京都中小企業家同友会は1970年に設立。約1900名の京都府下の中小企業経営者が会員として参加し、経営体験の交流などを通じて経営の改善と発展を目指して学びあっています。
ソーシャルインクルージョン委員会は、働きにくさを抱えている人たちが、働く事により幸せを感じてもらえるような地域社会づくりの為に活動しています。
また、発達障害と精神障害のあるBさんは、生協の配達や介護職を経て、ものづくりに魅力を感じ八年前に入社。職人仕事を担う彼は、寸法をそのまま理解するのが難しく、自分で図面を引き直し、計算してからでないと動けない特性がある。山田さんはその非効率さを補うため、寸法が一目でわかる作業表を作成。最初はうまくいかず、何度も話し合い、ようやく理解しやすい表が完成した。それは他の社員にも役立つツールとなった。

Bさんは現在も月一回、以前通っていた就労移行支援事業所の支援員と山田さんとの三者面談を行っている。困り事を「翻訳」して伝えてくれる支援員の存在が、安心して働き続ける支えになっているという。「何とかしようと無理せず、人に頼る事が大切。できない事を見極め、あきらめる事も必要」と、障がいを抱えつつ社会に出ようとする人たちにBさんはメッセージを送る。
障がい者雇用における「合理的配慮」とは、「障がい者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置」(厚労省より)。だがそれは特別な制度ではなく、一人ひとりに丁寧に向き合い、工夫を重ねる姿勢にほかならない。山田木工所の実践から、その本質が見えてくる。
仕事を通じて成長する当事者たち
実は入社当初のAさんは、「自分が損をする事はしたくない」という姿勢が強く、仕事への向き合い方に苦労していたという。転機となったのは、自身が手がけた木製のワイングラスを、かつて通っていた就労移行支援事業所に納品しに行ったときの事。支援員や通所者たちから「Aくんすごいなあ、こんなん作ってんの!」と褒められ、誇らしい気持ちを味わったその経験が、彼の意識を大きく変えた。今では自分から積極的に働き、職人たちとコミュニケーションをとりながら仕事をこなす姿が日常となっている。もともとは人との関わりが苦手で山田さん夫妻としか話せなかったAさんだが、人との接点を持つなかで社会との折り合いがつけられるようになってきた。今では「障がい者」と強調する必要すらないほど自然な働きぶりだ。
山田木工所におけるAさんのプロセス
山田木工所では「自分の弱みを見せ合う会」を行い、お互いの弱みを共有する事で社内に優しさが生まれた。

一方Bさんは、初任給で奥様に記念日のプレゼントを贈ったという。長年「家族に迷惑をかけてきた」という思いを抱いてきた彼にとって、障害年金ではなく、自ら働いて得たお金で感謝を伝えられた事は、大きな意味があった。山田さんはそのエピソードを「人の事だけど、めっちゃ嬉しかった」とじんわり振り返る。こうした小さな成功体験が、確かな“自立”への一歩となっている。
やさしさが循環する職場へ
当初は難しさも感じていた障がい者雇用だが、「その人の特性に合った仕事」と「難しい仕事」を丁寧に仕分ける事で、むしろ職場全体の効率が上がる事を、山田さんは実感している。例えば、単純だけど作業量が多く根気のいる仕事を、まとめて繰り返し作業を安定して行える障がい者が担当する。すると熟練の職人がより専門的な作業に集中でき、結果的に会社の利益にもつながっていく。障がい者にピンポイントで効率を求めなくても、全体で見ればプラスになるのだ。

さらに、障がい者に限らず、多様な人が共に働く事には大きな価値がある。苦手や得意をお互いに理解し、少しの配慮を加えるだけで誰もが働けるし、居場所もできる。その過程で「人を思いやる」という気持ちが育ち、自然と助け合う空気が生まれる。山田さんは「会社全体がやさしくなった」と実感を込めて語る。
障がい者雇用を通して得たのは、効率や利益以上に、職場に巡るやさしさだった。

山田木工所の取り組み
ごちゃまぜハウス

「ごちゃまぜハウス」は、山田木工所が運営する地域食堂を併設したユニークなシェアハウスです。困りごとを抱えて自立が難しい方(障がい者、高齢者、児童養護施設出身者、難病者、ひとり親、ひきこもり)や健常者・学生など、異なるバックグラウンドを持つ人々が一つ屋根の下で、それぞれの弱点を補い合い、助け合いながら生活する場を作ります。
木の幸 -kinosachi-

京都市産材である「みやこ杣木」のみを使った木材で製材したグラスや一輪挿しなどの生活雑貨を取り扱うオリジナルブランド「木の幸-kinosachi-」を展開しています。ブランド名には、「海の幸」「山の幸」と同じように、木からいただく幸せのひとつに山田木工所の木製品がなれますようにという願いが込められています。

山田木工所
〒601-8128 京都市南区上鳥羽大柳町23番地
Tel. 075-691-4650
( 記事 山本 千珠 )
