会社は働く人の幸せのために存在する―株式会社アグティ

障がいがある人も、決まった時間に働くことが難しい人も、誰かとゆるやかにつながりながら、ちょっとずつ社会と関わっていく、そんな“自分のペース”を大切にする場『梅小路ACWA』が、下京区に誕生。ここには、人と人、人と地域がゆるやかにつながる、新しい共生のかたちがある。“障がい者”という枠組みを超えて考える、働くこと・関わること・そして「いい感じの社会」とは。
梅小路ACWAを運営する株式会社アグティの代表取締役・齊藤徹さんにお話を伺った。

齊藤 徹 (さいとう とおる)
株式会社アグティ 代表取締役

1977年10月生まれ。1997年に有限会社アロマクリエイト(現:株式会社アグティ)へ入社。取締役を経て、2013年に事業承継により代表取締役に就任。2014年にはNPO法人ブルーステージを設立し、理事長として障がい者の就労支援に取り組む。2022年に同法人の理事長を退任し、株式会社でかいうつわの取締役に就任。現在は、いい感じの日々を過ごしている。

ゆるやかに関われる新拠点、梅小路ACWA

障がいの有無を越えて、誰もが“自分のペース”で関われる場所・梅小路ACWA。
その新しい働き方の拠点とは?

 もともとアグティは、久御山町で「ACWA BASE」という仕事場を運営してきた。洗濯物を畳むというシンプルな作業を通じて、障がいの有無に関わらず、誰でも「自分のペース」で働ける場所だ。主婦もいれば高齢者もいるし、副業が可能な会社員も来られる。来る時間も、過ごし方も自由。作業をたくさんする日もあれば、おしゃべりだけして帰る日があってもいい。

 こうした柔軟な働き方を支援する取り組みが話題を呼び、行政や団体、企業などからの連携の声が増え、コラボレーションで出張型イベントを開催するようになった。イベントの日にはその日をめがけてたくさんの参加者が集い、賑わいのある場が生まれた。齊藤さんは、このような取り組みに人と人との新たな接点をつくる大きな価値を持つことを実感した。

 同時に、ACWA BASEが「いつでもふらっと立ち寄れる場」であることの大切さも、改めて強く感じた。イベントの賑わいに頼るだけでなく、日常に根ざし、関係性が自然に育まれる場を地に足をつけてつくりたい。ちょうどこの頃、久御山の作業所は定員いっぱいになる日も増えてきたこともあり、常設の新拠点として京都市内・梅小路での展開を決意することとなった。この土地を選んだのは、京都府や京都市からの企業視察や誘致を受けたこともきっかけとなったが、もう一つの理由は京都市内という立地だ。人口が多く、学生との交流も期待できるため、久御山とは違う層の人々と関わりが生まれると考えたのだ。

 梅小路ACWAでは、作業場のある1階と託児所のある2階を通じて、通常は交わらない人同士が自然につながる仕組みがある。子どもたちが1階に遊びに来ることもあるし、「顔見知り」が増えるだけでも十分な関係性だという。
 利用者の一人は「障がい者だけでない環境で一歩を踏み出せることが、大きな自信になっています」と語る。気軽に訪れてほしい。誰と出会えるか、今日も楽しみなのだ。

「いい感じの社会」は関係性から生まれる

誰かと自然につながること。それが人を支え、社会を変える。
アグティの実践から見えてきた共生のヒント。

 アグティが障がい者雇用に本格的に取り組みはじめたのは、先代の社長の時代、今から約二十年前のことだ。障がいのある方を採用するにあたり、社内で受け入れ研修を実施したが、すぐ退職する人が相次いだ。社員からも「同じ仕事をしているわけでもないのに、なぜ自分たちと同じ雇用条件なのか」という声が上がり、当時の社内は戸惑いに包まれた。齊藤さんはその経験を振り返り、「人は、頭で理解していても、受け入れられるとは限らない」と語る。
 そうした経験を踏まえ、アグティは段階的な取り組みを進めてきた。まずは複数の就労支援施設に仕事を委託。さらに、施設外就労という形で障がいのある人と支援員に会社に来てもらい、実際の職場で働いてもらうようになった。洗濯機に洗濯物を入れる、干す、畳むといったシンプルな作業が中心だ。

 こうして日常の風景の中に障がいのある人が「いる」ことで、社内の空気も変わっていった。直接の関わりはなくても、同じ会社で働いているという事実が、じわじわと社員の意識に作用していく。やがて「アグティで働きたい」と希望する人も現れ、面接を経て採用へとつながる。雇用条件は、いわゆる“健常者”の社員と変わらない。 それでも、障がいのある人と健常者のあいだにあるギャップが完全になくなることはないという。「それぞれがそれぞれでいいんです。無理に分かり合おうとしなくていい。ただ、お互いがそこにいるということを、自然に受け止められる状態が大事なんです」と齊藤さん。アグティの障がい者雇用は、“共にいること”から始まっている。

 アグティが大切にしているのは、「働く人の幸せ」だ。その幸せを支える要素として、齊藤さんは「自己決定権」と「人との関係性」の二つを軸に据える。自分で選び、自分で動けるという感覚と、自分以外の人との関わりの中で醸成されていくものがある。久御山ACWA BASE、そして梅小路ACWAは、そうした「人との関係性」の部分を支える場所として生まれた。ここでは、「あの人知ってる」といったゆるやかなつながりから、思いがけず関係性が育っていく。無理に仲良くなろうとしなくても、顔を合わせるうちに少しずつ関係ができていく。そうした関係は、気が合う・合わないにかかわらず、疎遠になりにくく、自然に続いていくものだ。齊藤さんが目指しているのは、そんな関係性を“置いておける”場所。意図せずに、でも確かに誰かとつながっている。そうしたナチュラルな関係性があることで、人は日々を素直に生きられる。アグティの取り組みは、そうした「誰かとともにある」感覚を、自然な形で支えている。

ある障がい者従業員の方をモデルにした「働ける」までの道すじ
苦しさの向こうに必ずしも良い未来があるわけではない。会社は働く人のためにある。目指すのは「働く人の幸せ」だ。だから、失敗はくりかえしてもいい。人が仕事に合わせるのではなく。仕事を人に合わせればいい。

 「何が“良い社会”なのかは、人によって違うんです」と齊藤さんは話す。誰もが努力して、成長して、未来に希望を持つべきだとされがちな今の社会。しかし、そもそも人は失敗を繰り返す生き物だし、いつも前向きに生きられるわけではない。だからこそ、そうした前提をお互いに受け止め合える関係性が、穏やかな社会につながっていく。
 もちろん、苦しい努力が「いい感じの未来」につながると信じられるなら、それもいい。でも、無理にがんばりすぎなくてもいい。良いときもあれば、そうじゃないときもある。齊藤さんが思い描くのは、そんな揺れを抱えたままでも、ふっと安心できる「いい感じの社会」だ。完璧ではないけれど、人と人とが関わりながら、心地よく共に生きていける社会。その足がかりが、梅小路ACWAにはある。

株式会社アグティの取り組み

ACWABASE -久御山-

久御山町にあるACWABASEは、アグティが地域循環ワークシェアリング事業として最初に設立した拠点です。「会社は働く人のために存在する」という理念のもと、「自由にはたらく」ことをきっかけに、顔の見える関係性を地域で紡いでいます。

洗濯工房

京都認知症総合センター内の常設型認知症カフェ「カフェほうおう」にて、利用者と協力しながら衣類の折りたたみ作業を行う外部連携活動を実施しています。

梅小路ACWA
〒600-8846 京都市下京区朱雀宝蔵町98 
Tel. 090-1484-1360
https://www.instagram.com/umekoji_acwa/

( 記事 山本 千珠 )

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